電子工作用として「これはイイッ!」っていう直流安定化電源って、なかなか売ってないナ~と思うのは私だけでしょうか?
てか、あることはあるんですがスイッチングノイズまみれでラジオや受信機には使えなかったり、大きくて重くて扱いにくかったり、価格が高かったり。ラジコンや充電にはそれでも良いんでしょうけどね。
例えば、代表的な市販の安定化電源装置といえば次のようなものがありますが・・・
DM-305MV 無線家ご用達、アルインコの安定化電源。通信機器用なのでノイズの少ないトランス方式ですが、最低電圧が高く6V~。 |
Kungber 安定化電源 DC0.00V~30.00V、0.00A~10.00A。10mV/10mAの調整ができるFINE調整などコスパは良いがスイッチング方式。 |
LEDMOスイッチング電源 この手の安定化電源の特徴は、スイッチング方式かつ特にノイズが多い反面、小型でとても安いという点。電圧は大抵は固定です。 |
AD-8723D トランス式でノイズが少なく一応は使えそう。ただ、値段の割には見た目がチープで重たいです。主電源SWしかないのも欠点。 |
GPS-3030DD ドロッパ方式で±両電源、デジタル表示や電流設定など電子工作用として十分な性能を備える安定化電源。ネックは重量と価格。 |
DK-911 サンハヤトの実験用直流電源キット。スイッチングノイズのないドロッパ方式。メータ類がない割には少々お高い気もします。 |
PS-3248 エレキットの出力可変型安定化電源ユニット。結構息の長い商品ですね。入門用としては良いかもしれません。 |
PSW-1080H800 もう個人で所有するレベルのものではない超高級機。スイッチング方式ですがこのクラスだと通信機器にも使えるんですかね? |
色々探してみるも、結局どれも不満が残るんですよ。
ということで自作してみたんですが、我ながらなかなか良いものができたので真面目に紹介してみようと思います。
そもそも安定化電源の自作といえば定番の電子工作ネタでもあります。電源は欠かせないし、わりと簡単に作れますからね。
愛用電源を持ち合わせていない方は、一度作ってみてはいかがでしょうか。
安定化電源の自作仕様
ということで、本作では電子工作や実験に適する仕様としました。
小容量ですが小型軽量にしました。片手でヒョイッと持って運びやすく扱いやすいです。
最大1Aというと少なく思えますが、ラジオやヘッドホンアンプ、マイコンなど普通の電子工作では大抵事足ります。
スイッチング方式じゃなくて、漏れ磁束の少ないトロイダルトランスを使用した安定化電源。加えてACラインノイズフィルタ付き。ラジオや受信機に使ってもノイズに悩まされることはありません。
また、高周波ノイズだけでなく直流出力のホワイトノイズなどもほとんどないので、高級オーディオに使ってもOKです。
本格的な安定化電源に付いてる電流設定機能を自作機にも。
設定した電流以上の電流が流れないようにするリミッタ制御を行います。出力電圧に対して十分低い負荷抵抗が接続されていると、定電流装置として動作します。
クリック感のあるロータリーエンコーダによる電圧・電流設定。
電圧は0.1Vステップ、電流は10mAステップで設定可能です。
自作ではボリュームを使った可変方式がよく使われますが、ピッタリ合わすのが結構難しいんですよね。しばらくするとズレたりするし・・・
デジタル式だとすぐにピタッと合わせられます。
テストモードにて、電圧設定と電流設定を自動校正できます。
また、通常動作時には出力電圧の監視と微調整を行っているのでズレが生じません。
実験とかやってて、回路の信号を聴きたいと思ったことありませんか?
そんな時に重宝するのがこの聴音アンプ。10倍のゲインがあるのでイヤホンラジオなんかもスピーカーで聴けます。直流ラインに乗ってる電源ノイズの調査とかもできます。
背面にサービスコンセントを用意。ハンダゴテやオシロ等の電源調達にかなり便利です。本作の部品だと合計10AまでOK。
ディスプレイの表示内容は、設定・実測値に加えて定電圧・定電流動作表示、テストモード表示を行います。
※古い写真なので定電圧表示は出ていませんが、使い方に実際の表示例があります。
物足りないとすれば次の三点ですかね?
大容量対応
めったに使うことのない大電流のために大型化しないようにしました。もし必要になった場合は、その用途に合わせてスイッチング電源なりバッテリーなり用意すればいいしょ、という考え方です。
±両電源
これもあまり使わないのに回路が大きくなってしまうんでパスしました。
必要ならば、ちょっとした回路で単電源から仮想GNDを作れるんで、両電源化するアダプタのようなものを作ろうかなと考えています。
表示が小さい
表示は7セグLEDとかで大きい方がいいのですが、回路や製作を簡単にするためにキャラクタディスプレイにしました。その代わり表示内容は多少充実してます。
本記事の製作例では、小型化するために基板を自作して表面実装部品を使っています。でも、表面実装品じゃないとダメという部品は無いので、普通のラジアル品に置き換えてユニバーサル基板に実装することも可能と思います。
回路図と設計
安定化電源の回路は、基準電圧と出力電圧をオペアンプで比較する定番の定電圧回路をベースに、出力電流検出と電流制限回路を追加したものとしました。
オペアンプには高性能な高精度オペアンプNJM8502Rを±12V両電源で使用。基準電圧は、DACのMCP4922で作っています。
PICマイコンPIC24FV32KA302は内蔵FRCオシレーター8MHzで駆動し、DACの設定やADC入力、ディスプレイ表示などの処理を行います。
回路の詳細
AC入力と整流
最初にコモンモードチョークを利用したノイズフィルタを置いています。この回路は市販のノイズフィルタでも良く利用されている典型的な回路。
C7とC9はYコンデンサと呼ばれ、普通は2200pF~4700pFが良く使われるようですが、漏れ電流を押さえたいので控えめの1000pFとしました。
2つのコンデンサの中点と、平滑コンデンサ(C16~C19)のマイナス端子付近からの2点をアルミケースへグランドしてノイズ対策としています。
なお、平滑用の電解コンデンサを1000uFx4にしたのは、性能向上のためではなく単に実装スペースの都合からです。
定電圧回路
下の基本回路はオペアンプを使った一般的なNFB型定電圧回路で、簡単で性能が良いのが特徴です。
これら二つの回路は微妙な特性差はあるものの、どちらも同じように使えます。本作ではコレクタ出力型の方を採用しています。
出力電流が小さい場合は基本回路のままでも良いのですが、大きい場合はパワートランジスタのベース電流が多くなるため、電流増幅用の1石を追加して応援します。
本作での出力電流はmax.1A、2SA1941-OのhFEは約100なので、最大10mAのベース電流が必要。そこで汎用MOS-FETの2N7000(Q2)を追加して電圧-電流変換を行い、オペアンプに負荷がかからないようにしています。
意外かもしれませんが、このオペアンプを使った安定化電源回路は発振しやすいので注意が必要です。
発信しやすい理由の一つは出力コンデンサが接続されるという点。電源装置なんで、コンデンサを付けて出力インピーダンスを下げたいということなんですが、これが容量性負荷となり発振しやすくなるんですね。
一番の対策としては、多めの位相補償用コンデンサを付けること。本回路ではC10がそれに当たります。
オペアンプの位相特性も重要です。低い周波数から位相が回る品種、例えばOPA2277はNJM8502Rと同じくらい高性能なんですが、周波数特性はかなり悪いので要注意です。
また、出力に抵抗を接続してアイドリング電流を流すというのも、容量性負荷の影響を抑える効果もあって有効です。本回路ではR3になります。
後は低ESR大容量のコンデンサを避けるとか。そもそも安定化電源回路は低周波領域でのインピーダンスは低いので大容量のコンデンサは不要です。付けたくなりますけどね。
で、「ピー」とかって派手に発振する場合は「気付ける」のでまだマシです。問題なのは、弱い発振で気づかない、強力に発信しているが高周波なので気づかない、特定の電圧または電流のとき時だけ発振するので気づかない、間欠発振になってて気づかないといったケースでしょう。
ネットで見つかるこの手の回路の記事では、発信しやすいという点について触れられているサイトはほとんどありまんせが、気付いていないだけなのかもしれません。
異常発振を確かめる方法としては、大小様々な電圧と負荷(電流)において、
- オシロを当ててみる。
- 出力にクリスタルイヤホン(0.1uF程度+ヘッドホン)を接続し聴音してみる。
- AM/FMラジオを近づけてみる。
といった方法があります。これら組み合わせで大抵は見つかります。
ちなみに、本作の回路では発振しないことを確認していますが、オペアンプや回路定数を変更する場合は注意した方が良いでしょう。
電流制御回路
出力電流の測定は1Ωのロード抵抗(R6)の両端電圧を計測することで行っています。1Ωという値はmax.1Aの測定にしては少々高いですが精度を高めるため。
これを差動回路(IC1-B)で3倍に増幅するので、1A出力時には3VがPICのADCに入力されます。
さらにこれを電流設定の基準電圧(REF-I)と比較し、設定された電流値を越えようとするとMOS-FET(Q3)をONして出力電圧を下げるので、設定値を上回らないように動作するNFBとなっています。
逆に、出力電流が設定値より少ない時は、FETのゲートは負電圧となるので完全にOFF状態になります。
ちなみに、トランジスタでは一般にベースエミッタ間の逆電圧耐圧が低いので、ここはFETの方が適しています。
それから、差動回路の4つの抵抗は多回転ボリューム2つにしています。調整によって0.2%位の誤差にできるので普通の金属皮膜抵抗(誤差1%)より高精度になります。
この電流制御帰還ループのゲインは、3×1×100(IC1-BとIC2-AとIC2-B)で、トータル300倍となっています。
基準電圧
12bitDACのMCP4922(IC9)を使用しています。PICとの通信はSPI。リファレンス電圧はレギュレターXC6202P332TH(IC8)の3.3V出力を利用しています。
今思えば、5V電源もレギュレータ出力なので、抵抗分圧とコンデンサのフィルタでも良かったですね。
±12V両電源
GND付近の電圧を精度よく計測するために、NJM8502Rは±12V両電源で駆動しています。そのためにLT1054CN8を使った負電源生成回路を設けていますが、実際の出力電圧は-11.6V程度になりました。
なお、+12V側は汎用レギュレータLM78L12(IC3)を使用していますが、データシート通りのデカップリング容量ではLT1054CN8の25KHzスイッチングノイズが50mVpp程度乗ってしまうため、100uF(C46)を付け加えています。
LT1054CN8の入力側のノイズを抑えるには、デカップリングをスイッチングキャパシタ(C24)以上の容量にするのがポイントのようですね。
出力側は、10Ω(R19)と100uF(C33)による簡単なローパスフィルタで済ませていますが、カットオフ約160Hz、25KHzでは-45dB程度の減衰効果が得られるので数mA負荷にとってはこれで十分です。
空冷FANの9V駆動
本作では、0.5V-1A出力時にパワートランジスタから約10Wの放熱があるので、一応放熱ファンを設けました。
完成後にエージングして試してみたところ「FANがなくても多分大丈夫かも?」というレベルだったので省略してしまっても良いかもしれません。
少なくともガンガン空冷する必要はないので、PC用の12VFANであるCFZ-6010L(究極静音タイプ)を、9Vで動作させることでさらに静音化することとしました。
チャタリング防止回路
大した回路じゃないんですが、ロータリーエンコーダのチャタリング防止に有効なので紹介します。
この回路は本作で使用したロータリーエンコーダEC12E2420801のメーカー、アルプス電気で紹介されている回路です。
EC12シリーズ|シリーズ共通情報
部品点数は増えますが、ソフトウェアによる対策より電子工作的で動作も確実です。
聴音アンプ回路
安定化電源回路とは独立したアンプ回路です。スイッチ付きボリュームで電源をON/OFFします。
簡単な割には音が良いHT82V739を使用。ステレオジャックを接続してスマホの出力なんかも聴けるようにするため、R23とR24でLR短絡防止&簡易ミキサとしています。
信号ラインだけじゃなくて電源ラインなどDC成分が含まれる部分の聴音もできるように考慮。C45(0.47uF)とVR7(10K)、C20(0.47uF)とHT82V739入力抵抗で、二次ハイパスフィルタを構成しています。
ただし、HT82V739の入力インピーダンスが約6KΩと低いので、ボリュームの位置によってカットオフ周波数は約40Hz~60Hzと変化します。
DCに接触した時のポップノイズ(バチバチ音)が嫌な場合は、より小容量の入力コンデンサにしてカットオフ周波数を高めにすると良いでしょう。
ちなみに、R22(47KΩ)はC45の電荷を抜くために付けています。負電圧や耐圧負けによる被験素子の破壊を防止します。
それから、微小な信号を聞き取れるようにヘッドホンジャックも付けましたが、手頃なSW付きジャックが入手できなかったので「挿すとスピーカーOFF」は断念しました。
使えるSW付きジャックってどこか売ってないですかね?
回路シミュレーション
LTSpiceを使って定電圧回路の動作確認を行いました。
NJM8502RのSpiceモデルが入手できなかったので、代わりにNJM2082を使いました。
最初の机上設計では、特定の条件で発振の兆候が見られたため部品定数を調整し、最終的には電圧(4)電流(4)負荷抵抗(3)の全48パターンにおいて安定動作することを確認できました。
後、パルス性負荷を接続して過渡特性も見てみましたが、全く動じない応答性能を示しました。しかし、シミュレーションで得た過渡特性は実際の性能と違っていることが多いので、作った後に実機で動作検証して確認しています。
パーツと入手先
使用したパーツは秋月やマルツなど日本の大手通販で揃います。半導体は全て秋月の通販で買いました。※2017年6月頃購入。今後販売終了になる部品が出てくる可能性もあります。代替品を探してみてください。
チップ抵抗やチップコンデンサは、普通のパーツ店で買い集めると結構高くつくので、MOUSERなどの海外の通販サイトでまとめ買いしておくのがオススメです。
より詳しく⇒電子工作パーツ入手先!おすすめの電子パーツ通販と店舗
主要パーツ
91937-P2S2(RSオンライン) データシート
汎用トロイダルトランスといやRSオンライン、といってもいいくらいかも?取付金具がおまけで付いてきますが本作では使いませんでした。
FM03D382MPF(秋月電子)
コモンモードノイズフィルタ用のチョークコイル15mH。コアは何やらファインメットという素材でてきていてこれが凄い?らしいです。
NJM8502R(秋月電子) データシート
高性能な高精度オペアンプ。最近のデバイスなんでDIPタイプはありません。ちなみに、高精度タイプでなくとも他の汎用オペアンプでも一応実用レベルにはなるんじゃないかと思います。
PIC24FV32KA302-I/SP(秋月電子) データシート
低消費電力の28pin 16bit PIC。本作では、DACとのSPI通信にペリフェラルを使っているだけですが、ディスプレイが8bitなのでI/Oポートが欲しくて多ピンになりました。
MCP4922-E/P(秋月電子) データシート
12bit 2ch のDAコンバーターで、インターフェースはSPIのみ。汎用的に使えます。
2SA1941-O(秋月電子)
アンプの出力なんかにも使われるパワートランジスタ。萌え萌えする形してます。Ic=10A Pc=100W なので1A安定化電源にはオーバースペックですが、大きい方が放熱効率が良いので採用しました。
SS401029-3-1(秋月電子)
60mmx76mmx15mmのヒートシンク。形からするとGUPかなんかのSMDプロセッサ用でしょうね。ネジ穴が無いのでドリルで穴あけとタッピングを行います。
WEH001602ABPP5N00000(共立) データシート
青色発光が綺麗なOLEDキャラクタディスプレイ。デジットでも売っています。8bitパラレル接続が少々面倒。4bitモードでも使えるようですが、初期化が失敗しやすいので要注意です。
CFZ-6010L(amazon)
アイネックスの自称「究極静音」ファンです。PC用12Vタイプですが、本作では9Vで動かすのでさらに静音です。
MB-21(マルツ)
タカチの汎用アルミケース。小型のため固定ネジが4本しかなく貧弱なので、本作ではネジを6本追加し剛性を高めました。持ち上げた時のフィーリングが良くなりますよ。
製作手順
まずは基板づくり。2枚の感光基板から全部で5枚の基板を作ります。
より詳しく⇒プリント基板の自作!感光基板を使った作り方で簡単製作
メイン基板と整流基板のパターンです。
緑色は銅箔、黄色は部品外形、灰色はジャンパーなどを表す補助線。灰色の抵抗らしき部品は0Ω抵抗でジャンパーとして使用しています。
サンハヤトの感光基板専用インクジェットフィルムPF-3R-A4にパターンを印刷。
「基板1.pbf」と「基板2.pbf」をmikanで開いて、hole、solder、裏B、裏C の4つのレイヤを印刷します。
写真は撮影する前に間違ってゴミ箱に捨ててしまったので汚れています。
なお、最新のパターンとは一部異なります。
現像が終わったところ。
ちょっと露光不足ぎみでしたが、後で再露光したらなんとかなりました。
エッチングして穴あけ、カット、フラックス塗布を完了したところです。
一枚余計なミニ基板が写ってますが不要です。最新のパターンには入っていません。
基板の実装に入ります。ポイントは定期的に手を洗いながら、そしてなるべくパターンに手を触れないようにすることです。そうすると銅箔を汚さずに綺麗に実装できます。
電源基板の実装です。
トロイダルトランスは縦に置いて底面をホットボンドで接着した後、さらに結束バンドで固定します。
電源基板の裏側。
真ん中に穴を開けていますが、この位置にスペーサを貼り付けるという印なので穴あけ不要。
ケースに固定する際ココに3mmジュラコンスペーサを両面テープで貼り付けて支えにします。
ACインレットと電源スイッチに接続するスズメッキ線をちょろっと出しておきます。
また、ケースにグランドするためのラグを付けておきます。
整流基板の実装です。左のラグ端子はトランスからの配線をハンダ付けします。
整流基板の裏側です。
おや?!ナットでパターン間がショートしてんじゃね?幸い実際にはショートしていませんでしたが、後で気付いてビスが裏側に来るようにネジ止めの方向を変えました。
なお、左上のネジ穴はケースとの1点アース接続部分になっていて、歯付き座金を噛ませて金属製のスペーサーで固定します。
メイン基板の実装です。
VRは先に調整してから取り付けます。後述の「調整方法」を参照してください。
メイン基板の裏側。他の基板もそうですが後でハヤコートしておきます。
写真左上の1Ωロード抵抗(R6)ですが、秋月で10個入りで売っている1%精度のチップ抵抗1Ω(2W)を4つ使ってます。温度上昇による誤差変動を抑えるためです。余っても仕方ないですからね。
本作で一番細かいハンダ付けは、0.65mmピッチのNJM8502R。
慣れていればなんてことはないんですが、ルーペと0.6mmハンダを使えばより簡単です。
苦手な方はフラックスを使ってみてください。
次に、ケースとヒートシンクの穴あけ加工を行います。
まず、ケースの加工図を印刷してキリで下穴をマークします。
加工図は「外形.pbf」をmikanで開いて外形レイヤを印刷したものです。
数が多いので結構疲れます・・・
ドリルで穴を開けたあと、大穴の部分はボロニッパで穴をつなげて切り取っていきます。
つなげた穴はヤスリで整えます。丸い穴は丸ヤスリでないと無理ですね。
アルミなので結構ザクザク削れます。削り過ぎに注意。時々部品をはめて確認しながら削ります。
ケースの裏には空気の取り入れ穴もあります。
ガンガン開けてます。
背面の加工完了。部品をハメ込んだら見えなくなる部分は適当でOK。
ケースの加工図を当ててキリで下穴をマークします。このくらいならメジャーで測ってもいいですが。
M3ビス用の穴をタッピングするために、2.5mmの下穴を開けます。
MB-21はケースネジが4本しかついておらず弱いので、取っ手をつける上部に4つ、側面に1つづずの計6本のネジを追加することにします。そのためのM3ネジ穴をヒートシンクと同様にタップします。
次に、コネクタケーブルを作っておきます。
より詳しく⇒コネクタの自作!電子工作の圧着工具と圧着方法
コネクタケーブル表を参考に、コネクタに配線を圧着していきます。
上は日圧のVHコネクタ、下はPHコネクタ。
聴音アンプ用のシールド線は、根元に熱収縮チューブを被せましたがあまり意味はないかも?
OLEDディスプレイは、電源用の2pinコネクタと、信号用の10pinコネクタの2つを付けます。
この時、OLEDの1pinと2pin間にコンデンサ(C38)をハンダ付けします。また、1pinと5pinを短いジャンパ線で接続します。
ここまで来たら、後はケースへの組み付けを行います。
まずは背面パネルにパーツを取り付けます。
FANの回転数検出用の白ケーブルは不要なので取り外します。
ACラインの配線を済ませて、電源基板を取り付ける直前に念のための絶縁シートを敷いておきます。本作ではプラ板の切れ端を使いました。
真ん中の穴は基板に貼り付ける3mmジュラコンスペーサーが来るところです。トランスの重みで基板がゆがむのを防止するわけですね。
ラグ端子を挟み込んでフランジナットで固定することで、ケースにグランドさせます。
このあたりでACラインとケースがショートしていないか確認しておきます。
ヒートシンクにパワートランジスタを取り付けてリード線を出す。
トランジスタとヒートシンクの間にはシリコンラバーを挟み込みます。
ここまで来たら、整流基板をケースに取り付けて動作確認を行います。
まず、整流基板に電源を入れ各電圧の出力が正しいことを確認。次にメイン基板とも一通り配線し火入れを行います。続いてファームウェアをビルドしPICkit3を接続して書き込みます。
初めての起動ではテストモードで起動し、出力0の状態で待機するので各部をチェックします。
うまくいったら一旦ケーブルを外し、ヒートシンクとメイン基板をジュラコンスペーサーとビスを使って合体します。
トランジスタは基板の裏側に来ます。配線は基板に開けてある配線用の穴を通して表側に出してからハンダ付けします。写真では基板下部にブロックを取り付けていますが、間違いなので無視してください。
前面パネルにパーツを取り付けていきます。
出力トグルスイッチとロータリーエンコーダは、突出量調整用のナットが内側にも必要です。トグルスイッチには付属していますが、ロータリーエンコーダにはM8ナットが要購入です。また、ディスプレイもM2ナットを2つ挟み込む形で取り付けます。外形図を参考にしてください。
聴音アンプ用の入力ジャックです。回路上のR22、R23を空中配線します。
写真では2KΩを付けていますが、回路図通り1KΩを付けてください。
入力ジャックはシールド線でボリュームへと配線。ここでR24、C45を空中配線します。
写真では100KΩを付けていますが、回路図通り47KΩを付けてください。
前面パネルに部品を取り付けた様子です。ロータリーエンコーダにはミニ基板を付けます。
写真では見えませんが、出力インジケータLEDもキャップを被せて3.5mm穴にハメ込んで配線してあります。
出力スイッチとロータリーエンコーダの突出量調整用ナットはこのようになります。
結構ギリギリなので、配線は押し込んでおけるようにした方が良いです。
写真のジョンソンターミナルの赤の配線は悪い例です。余裕を持たせて奥に押し込まないと邪魔になります。
それから、ロータリーエンコーダのツマミ。秋月で売っている写真のツマミは、軸にギザギザのあるボリューム用なのでそのままでは使えません。しかし6mm径のドリルで手でグリグリするとハマるようになります。これは当方独自の裏ワザです。
ポイントはグリグリしすぎないこと。突き当たったらすぐにやめた方が良いです。
グリグリが上手くいけば何もせずともそのままハメれるんですが、ちょっとやりすぎてしまった時は写真のように結束バンドを短く切ってアロンアルファで内側に貼り付ければOK。半月型の軸にハメるようにするわけですね。これで上手くいきます。
いよいよメイン基板を組み込みます。
8mmブロックと座金とナイロンワッシャを写真の様に合わせてビスで固定します。これでメイン基板とヒートシンクが完全に合体しました。
メイン基板へのコネクタを接続しつつ、横からスライドインするみたいな感じで組み込みます。
基板パターンとケースが接触してショートしないように座金を2枚挟んでケースにビス止めします。ギリギリのスペースなのでちょっと苦労しました。
ちなみに、ICSP端子は横に出してますのでこの状態でもファームウェアの書き込みやデバッグが可能です。
ここまで来たらもう完成ですね。
後はフタを閉めるだけの状態。
この位置から見ると分かりますが、トランスとメイン基板の間にヒートシンクを持ってきてノイズをもらわないように配慮しました。
そうそう、チョークコイルもホットボンドで固定した方が良いです。
ちなみに、トロイダルトランスがたま~になんですが、かすかにコイル鳴きします。そして突然止んだり・・・
良くわかりませんがフタを閉めたら聞こえなくなりました。
なお、底面を除くケースのネジは全部で10本。ハンズで売っていた超低頭ビスを使いました。見た目スッキリするのでオススメです。
ちなみに、取っ手に違和感を持たれたのではないでしょうか?なんか浮いてますし・・・
もっとカッコイイのがあるんですが、持ちやすさを優先して探していたら妻から手芸用の?これを手渡されたので使った結果・・・今では違和感なくなりましたw
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調整方法
本作には調整用のVRが6個付いていますが、全て取り付け前に調整するのが基本です。
特に差動回路のVR1、VR2、VR5、VR6は、後から触るとにっちもさっちもいかなくなってハマるので要注意。調整のポイントは抵抗の絶対値ではなく、プラス側とマイナス側で抵抗の比率が同じになるように調整するということです。
電流計を調整します。
VR1とVR2でそれぞれ抵抗値が1:3(2.5KΩ:7.5KΩ)になるように調整します。基板取り付け後は触りません。
電流リミッタを調整します。
VR5とVR6でそれぞれ抵抗値が1:1(5KΩ:5KΩ)になるように調整します。基板取り付け後は触りません。
電圧計を調整します。取り付け前に15KΩ:5KΩに調整しておけばOK。必須ではありませんが普段使っているテスターなど、リファレンスと同じ表示にしたい場合は組み立て後にも微調整します。
2. 普段使っているテスターで出力を計測し、それと同じ表示となるように調整する。
テストモードの出力が12Vから多少ズレていても気にしないでください。同じ表示にするということが目的です。
電圧帰還量を調整します。取り付け前に15KΩ:5KΩに調整しておけば必須ではありません。多少の誤差は自動校正によって正されるので気にしなくてもよいのですが、理想に近づけたい場合は組み立て後にも調整します。
VR3の調整後に、テストモード1にて出力電圧表示を見ながら12.0Vピッタリになるように調整します。
最後に自動校正をかけてから通常モードに入る操作を行えば完了です。
テストモードの詳細については、使い方を参照してください。
ファームウェア
プログラム処理
そんなに大したことはやっていません。割り込みは使っておらず、DACの設定やADC入力などをグルグルと回しているだけです。
念のため、ウォッチドッグタイマによる異常監視もしています。デバッグ時には_DEBUGディレクティブを定義して無効にすることができます。
ADC値から電圧/電流を求める方法
PIC24FV32KA302は12bit(最大値4096)のADCを内蔵しています。また、1.024Vのバンドギャップリファレンスを内蔵しており、その4倍の電圧をADCのリファレンス電圧として設定できるようになっています。つまり、4.096Vを設定すればADC1BUF0から読み出したADC値がそのまま1mV単位となるんですね。
これはAD1CON2レジスタのPVCFGで設定します。
ADCに入力する測定対象の電圧はVR4で1/4に分圧した電圧なので、ADC1BUF0から読み出した値を単に4倍すれば、それが求める電圧(mV単位)となります。
電流の場合は、1Ωの両端電圧をIC1-Bで3倍した電圧をADCに入力するので、ADC1BUF0から読み出した値を単に3で割れば、求める電流(mA単位)となります。
電圧/電流からDAC値を求める方法
DACのMCP4922も12bit(4096段階)です。リファレンス電圧は3.3Vを供給していますので、DAC値1あたり 3.3V/4095 の基準電圧を出力することになります。
IC1-Aのイマジナリショートにより、出力電圧を1/4した電圧と基準電圧が同じになるように動作しますから、DACに設定する値は Vout/4 ÷ 3.3/4095 つまり(Vout×4095)/(4×3.3)で求まります。
電流側も同様に、IC2-Aのイマジナリショートにより、出力電流(mA単位)を3倍した電圧と基準電圧が同じになるように動作しますから、DACに設定する値は Iout×3 ÷ 3.3/4095 つまり(Iout×3×4095)/3.3で求まります。
DACに設定する値は、初めて起動した時に計算によって求めてEEPROMに書き込んでおきます。その後、自動校正によって実測調整した値で上書きするようになってます。なので、自動校正をやらなくてもそれほど大きな誤差は出ないです。
ソースとビルド
ソースファイルは main.c と、ちょっとした型定義をやってる typedefs.h だけです。他に必要なライブラリとか何もありません。
MPLAB X IDE で「PIC24FV32KA302」の空プロジェクトを作り、二つのファイルを追加してビルドすればOK。
使用したIDEバージョンは下記の通りですが、特殊なことなんぞやってないので以降のバージョンでも問題ないでしょう。
MPLAB X IDE:v3.65
XC16:v1.31
MPLAB- X IDE | Microchip Technology Inc.
ちなみに当方では、PICkit3 を使って書き込みやデバッグをやってます。
PICkit3 Microchip正規品。PICへのプログラムの書き込やデバッグができます。最近では安い中国製の互換品も出回っていますが微妙です。 |
使い方とか
テストモード
通常モードでは説明不要と思いますが、テストモードについてまとめておきます。
テストモードの表示。
右上に”T”、右下にモード番号を表示します。
電圧ノブと電流ノブを左に回して最小値にしてから、両方ともさらに5クリック以上左に回すとテストモード(初期モード0)に入ります。また、製作後初めて起動した時もテストモードで起動します。
テストモード0にて、電圧ノブを右に回すと通常モードへ入ります。この時、EEPROMにフラグを書き込むので、次回から通常モードで起動するようになります。
つまり、一度はこの操作をしないと通常モードで起動するようにはなりません。
電流ノブを回すとモードが切り替わります。
モード0:電圧と電流を0にして待機。火入れ時の動作確認用です。
モード1:約12Vを出力して待機。VR4の調整用です。
モード2:電圧ノブを右に回すと電圧校正を開始します。数分かかります。
モード3:右に回すと電流校正を開始します。出力端子はショートさせて下さい。
定電圧・定電流動作表示
定電圧動作の時。
右上にマークを表示します。いつもはこの状態になっていることでしょう。
定電流動作の時。
右下にマークを表示します。負荷抵抗が大きくなり700mAを下回る条件になると定電圧動作に切り替わります。
聴音用ケーブルの自作
聴音アンプに接続する入力ジャックに、秋月で売ってる金メッキのシールドクリップを取り付けて作りました。
ケーブルはシールド線です。
両端オスのステレオプラグケーブルでスマホなどと接続してもOK。
電源ケーブルの改良
クランプコアを付けてさらに高周波コモンモードノイズ対策。
まあ、無線に使うんだとか、近くに強力なノイズ源があるなら分かりますが・・・気休めに過ぎんかも?
動作検証
計測/出力精度
精度というより動作確認程度になりますが。
※古い写真なので定電圧・定電流動作表示は出ていません。
0.5V÷10Ωの通り、50mA流れています。
1Aを超えません。
この時の電圧は0.05V~0.06Vを示していたので0.055Vと見て良いでしょう。これは、ショートとは言っても0Ωにはならず、シールドクリップのリード線などを含めた出力経路全体に0.055Ωの抵抗があることを意味しています。
3.3V÷10Ωの通り、330mA流れています。
1Aを超えません。
1mA超えて、51mAとなりました。
過渡特性
黄色は出力電圧、水色は出力電流です。
出力3.3Vの時、負荷抵抗を11Ωから6Ωにして、電流を300mAから550mAへに変化させた時の波形。
約2usで大体復帰している事が分かります。
その瞬間、電圧は約-500mV降下し、電流は+150mA超えのオーバーシュートが発生していることが分かります。
次に、8V、500mAに設定し、出力をショートさせた瞬間の電流を見ました。
約15msの間、設定電流をオーバーしている事がわかります。これは、電流制御帰還ループ内のLPFと位相補償コンデンサによる遅延になります。
さらに正確な瞬間電流を観測するために、サンプリングレートを1GS/sに上げて拡大。
短い時間軸では、一瞬だけですが2Aもの電流が流れていることが分かります。これは出力コンデンサの放電によるもの。約5nsが放電期間になっていますね。(200MHzの一周期分)
このように、電流制御は帰還ループ内にあるLPF(C8)と位相補償(C11)により15ms程度の遅延が発生します。また、帰還ループ外にある出力コンデンサ(C13)による放電により一瞬大きな電流が流れます。
つまり、厳格なリミッタではなく瞬間的に設定値を超えることがあるので、負荷の絶対定格を超える使い方や、むやみにショートさせたりすることは避けた方が良いでしょう。
XDS3202A 最大1GS/s 14bitAD 200MHzバンド幅のデジタルオシロスコープ。タッチ式スクリーンは広くて見やすいです。 |
出力ノイズ測定
200MHzのオシロを使って、バンド幅20MHzで測定してみました。
出力にオシロを当てると3.0mV~3.5mV程度のホワイトノイズが観測できます。しかしこの条件だと、オシロ自体のバックノイズが2.5mV程度観測できるので、安定化電源のノイズは1mVpp以下だと思われます。
また、AC電源のリップルレベルはオシロでは測定限界下という結果です。
次に、可聴域でのノイズを調べるために、本機お家芸の聴音機能を使ってみます。
自身の出力ノイズを聴いてみましたが、ほぼありません。ボリュームを最大にしてヘッドホンで聞くと、ホワイトノイズが小さく聴こえる程度です。
また、AC電源のリプルは0なので、ボリューム最大でもハム音は全く聞こえません。1A出力時でも同じです。
ダウンロード・ツール
製作に使用した全ファイルです。無断で二次配布することはご遠慮ください。ご紹介いただく場合は当記事へのリンクを張ってください。連絡は不要です。