電子工作での赤外線LEDの使いみちとしては、リモコンや赤外線カメラで使う赤外線LEDライトなどがありますが、多分リモコンで使うことが一番多いのではなかと思います。
しかし、うまく通信できないという話が意外と多いようなので、赤外線LEDの使い方を簡単にまとめておきます。
リモコンの赤外線LED
リモコンに使う赤外線LEDは、普通、ピーク波長が950nm前後のものが利用されます。リモコンの規格でもそのように定められています。
でも、少しくらい違っていても赤外線受信側ではちゃんと受信してくれます。どのくらい違っていたらダメなのかははっきり分かりません。
というか、そもそもそんなに多くの種類の波長品種が売られているわけではなくて、パーツショップで売られている赤外線LEDの多くは940~950nmのものです。
念のため、購入する時はデータシートなどで確認しておきましょう。
次の赤外線LEDは秋月電子で売られている2種ですが、両方とも高輝度タイプでスペックもほとんど同じ。現在の標準的な赤外線LEDです。
・外形:3mm
・標準電流:50mA
・VF:1.35V(IF=100mA)
・ピーク波長:940nm
・外形:5mm
・標準電流:50mA
・VF:1.35V(IF=100mA)
・ピーク波長:940nm
赤外線LEDは、普通のLEDと比べると順方向電圧(VF)が小さいのが特徴です。だからCR2032といったボタン電池でもそのまま駆動できるんですね。
見えないがゆえに…
光っているところが直接見えないため無茶をしやすいのかもしれません。
うまくいかないからって、電源に直接つないで大電流を流してみるとか…やってもたことはありませんか?
LEDは思っている以上に損傷しやすいデバイスで、一度でも絶対定格を超える電流が流れた場合、到達距離も極端に短くなってしまうことが多いです。
最近テレビでもよくやっているので広く知られるようになりましたが、スマホやデジカメなど、カメラで見ると白色や紫色で発光具合を確認できます。
赤外線LEDの距離
大豪邸の大部屋は別かもしれませんが、普通は正面を向けて使った場合、部屋の中ならばどこでも届くくらいの距離はありますよね。
この赤外線の到達距離を最も大きく左右するのは、駆動電流です。他にも、放射強度や密度など、データシートにあるスペック的な要素も影響しますが、やはり与える電力による違いが大きいです。
ちなみに、上でご紹介した3mmのものと5mmのものとでは、5mmの方が放射強度も若干強いし、物理的に大きいので遠くまで届きそうな気もしますが、実際に比べてみると3mmの方が(少しですが)よく届きました。
もちろん、個体差などもあると思いますので、気になる場合は実際にご自分の環境で試してみてから決めたほうが良いでしょう。
赤外線LEDの電流
赤外線LEDは、普通のLEDと違ってVFが小さいぶん標準電流が多くなっていて、一般的には一般的50mA~100mAとされています。そして、この標準電流を守らないと、到達距離が短くなってしまうので注意が必要です。
普通のLEDの場合だと、データシートに書かれている標準電流(10~30mA)を流すとかなり明るいですよね。特に高輝度タイプのLEDだと、直視したくないほど眩しいです。
なので、野外で光らせるような場合は別ですが、室内でインジケーターなどとして使う場合には0.1mAとか、標準電流とは一桁も二桁も少ない電流にしたりします。
しかし、赤外線LEDの場合はそんな感覚で使うと受信機まで届きにくくなってしまいますので、データシート指定の標準電流以上で使うようにします。
となると、CR2032などの小型電池を使った場合、その電流容量は大丈夫なのかとか、電池の持ち具合が気になるところですが、リモコン用途ではパルス状に光らせるため意外と大丈夫なんです。
リモコン信号フォーマット
リモコンの信号フォーマットには、NEC方式、家電製品協会、SONYなどのフォーマットがあり、多くは前の2つが占めています。
赤外線リモコンの通信フォーマット
赤外線リモコンのフォーマット
注意点として、いずれのフォーマットでもONの期間は38KHzのパルス信号を飛ばしているという点です。(サブキャリア変調)
赤外線モジュールで受信すると、この38KHzの成分は除去されるため、オシロで観測するとONの期間は単にONしているだけのように見えますが、実際に飛んでいる赤外線信号は違うということですね。
ここを誤解して送信機を作るとうまくいきません。
ちなみに、多くの赤外線受信モジュールはコレクタ出力となっているため、赤外線がONの時はLOレベルが出力されます。上の図で出力が逆になっているのはそのためです。
一般的な赤外線受信モジュールの例。
OSRB38C9AA(秋月電子)
赤外線LEDの回路例
PICマイコンから50mAの標準電流でドライブする回路例です。
マイコンのIOポートの駆動能力は一般に小さいので注意が必要。例えばPICの場合、1ピンあたり最大25mAまでなので、直接接続すると(壊れることはありませんが)到達距離がかなり短くなってしまいます。AVRなどでもそのくらいなので同様です。
トランジスタの場合、約0.5mAのベース電流が必要なので消費電流が多くなります。その代り、使える汎用トランジスタがたくさんあるので部品には困りません。
一方FETの場合は、余計な電流は不要ですから効率的です。その代り、低い電圧(VGS)で十分に低いON抵抗となるFETの品種がトランジスタよりかは少ないため、使える部品の自由度という点では不利になります。
上の例で使っている IRLML6344TRPBFTR は秋月電子にもあるNchのMOSFETで、VGS=2.5Vで37mΩのON抵抗というオススメ品種なんですが、SMDなのでユニバーサル基板で使う場合には変換基板が必要です。
赤外線LEDの電流制限抵抗値は次のようにして求めます。
具体的な数値は上の回路例での計算例を示していますが、実際の回路では電池電圧の低下などを考慮し少し余裕をみて27Ωと記載しています。
それから、上の回路ではトランジスタのベースに抵抗を入れないと無駄に大電流が流れてしまいます。その抵抗値は次のようにして求めます。
具体的な数値は上の回路例での計算例を示しており、とりあえずPICの出力電圧を2.9V、トランジスタのhFEを100としています。計算上は4.6KΩになりますが、38KHzの周波数なので余裕を見て少し低くしておくと良いです。なお、プルダウン抵抗は不要です。
赤外線LEDの駆動電流は50mA以上のパルス状です。連続放電より負担が少ないのでCR2032などのボタン電池でも駆動できるんですが、小型電池は内部抵抗が大きいので十分な容量のパスコンを接続します。
次の波形は、上の回路で電源にCR2032を使い、パスコンの容量を変えて電源ラインの電圧変動を計測した結果です。
パスコン0.1uFの場合。
電源:360mVpp
出力:2.8Vpp
最大で約360mVの電圧変動が起きています。
パスコン10uFの場合。
電源:260mVpp
出力:2.8Vpp
最大で約260mVの電圧変動が起きています。
パスコン100uFの場合。
電源:200mVpp
出力:2.8Vpp
最大で約200mVの電圧変動が起きています。ここまで抑えることができれば、とりあえずは十分でしょう。
実装スペースが許されるなら、47uFや100uFのパスコンがオススメですね。
このように、パスコンの容量が少なからずとも到達距離に影響する可能性があります。
また、電池を効果的に使い切るためにもなるべく容量の大きいパスコンが効果的です。
うまくいかない原因
既に説明しましたが、失敗の原因をまとめると、きっと、次のうちのどれかです。
→標準電流(一般的には50mA~100mA)を流すようにする。
→送信時には、ONの期間は38KHzのパルス信号を送信する。
→完璧は無理ですが、少なくとも10~15%以内の誤差に押さえてみる。
→一度でも抵抗なしで電源につないでしまったなら交換してみる。